この記事はギャンブル依存症である私が、家族へカミングアウトし理解してもらうために、ギャンブル依存症の実態についてまとめてみたいと思います。
ギャンブル依存症についての理解をギャンブルをしない人に得てもらうためには非常に難しいことであるとも思います。
何より家族に説明する前に自分自身で自らが患ってしまったこのギャンブル依存症という病気について理解しなければなりません。
この記事の内容は、平成27年に角川新書から田中紀子さん著の「ギャンブル依存症」という本を要約して客観的にまとめてみたいと思っています。
この書籍の筆者も、家族(父や夫)がギャンブル依存症であり、長年にわたりギャンブルの問題や借金の問題で苦しんできたそうです。
第1章 ギャンブル依存症とは何か
日本のギャンブル依存症とされる人の割合は諸外国に比べ圧倒的に多く20人に1人という統計があるそうです。
これは日本において、全国いたるところにパチンコ店がある事や、1年間365日、競馬・競艇・競輪・オートレースが開催されていることも深く関わっています。
ある精神科医の先生の所にギャンブル依存症で受診された方のデータを見ると、初診時の平均年齢は39歳。
患者自ら受診に行く場合よりも家族が先に相談に行くケースのほうが多い。
平均で27.8歳で借金を始め、平均負債額は595万円。100人のうち28人は自己破産含め債務整理をしています。
またギャンブル依存症の他にも精神疾患を併発しているケースも多いというデータもあります。
こうした数字を見ると娯楽の域をはるかに超えています。
ギャンブル依存症は治療すべき病気
ギャンブル依存症というと「どうしようもないギャンブル好き」というイメージを持たれるかと思いますが、実際には一般の人と同じように普通にギャンブルを楽しんでいたのに、自分でも気づかないうちにやめたくてもやめられないギャンブル依存症という病気を発症していたのです。
世界保健機関(WHO)は「治療すべき病気」と位置付けています。
その本人の人間性の問題にすぎず、意思でなんとかできると考えられがちですが、そうではありません。
ドーパミンの過活動が大きな原因の一つになっています。本人の意思だけではなんともできない病気という認識が必要です。
ギャンブル障害の研究はまだ発展途上ですが、確実に言えるのは意思や根性でどうにかなる行動ではないということです。
また自殺のリスクが非常に高いことも挙げられます。
「立ち直る」「更生する」はNGワードであり、病気を理解することから始めなければなりません。
やめたいのにやめられない、目的は借金返済
依存症者の大半は、好きでギャンブルをやっているわけではありません。
最初は好きでやっていたとしても、ある段階から「やめたい」と思っていながら「やめられなくなって」います。
そのようなニュアンスが一般の人には理解しづらく、依存症になった人間でなければわからず、他人に伝えにくい。そこで本人と周囲の人に温度差が生まれてしまいます。
本人も「まさか自分がそんな風になると思わなかった」と信じられない気持ちになります。
厄介なことにギャンブルは「知的なゲーム」の一面もあります。
ギャンブル依存症者には論理的で分析や理屈が好きな人が多くいます。
ある段階から「やりたくないのにやっている」「泣きながらやっている」という状態になります。
ギャンブル依存症で借金を重ねていくと「借金を返すためにはギャンブルを続けるしかない」と考えるようになります。
ギャンブルを続けるしか選択肢がないような切羽詰まった感覚になり「行くしかない」とむしろ自分を奮い立たせるようにギャンブルを続けてしまいます。
借金を返せる日はきっと来ると疑わず、たとえ勝った時もそのお金で借金を返さずギャンブルに使ってしまいます。
ギャンブルを続けていれば必ず借金が返せる日が来ると信じている思考はすでに異常です。
しかし本人たちはそれしか正解がないように思い込んでいるのです。
依存症者は自分にとっての問題は借金だけだと考えているため返済が難しい額になってしまうと、ますます大金を賭けるようになり悪循環に陥ります。
第2章 ギャンブル依存症と社会的な事件の例
ギャンブル依存症になり、やめたくてもやめられず、その結果としてとても返済できないような額まで借金が膨らむなどして人生に絶望する。心理や理由はそれぞれですがそこで犯罪に走る人も出てしまいます。
事件簿1.ベネッセ個人情報流出事件
2014年7月に発覚。「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」などを運営するベネッセコーポレーションの顧客情報 4,800万人分が外部へ大量に流出した。
ベネッセで派遣社員として働いていた男性システムエンジニアが名簿業者へ情報を売り、合計400万円ほどを得た。
この事件の特徴としては、「4,800万人という日本の約4割もの情報を流出させた」ことに対する報酬が「400万円」という、被害の規模に見合わないものであったことが挙げられる。
依存症者が追い込まれていくと、普通の人では考えられない切羽詰まった感覚が強くなります。脳が機能不全になり、前頭葉の働きが悪くなって思考回路がうまく働かなくなると言われているようです。
事件が発覚した後のマイナス面についてはあえて考えないようにして突っ走る。
バレた後の恐怖心はあるものの、その借金問題をキレイに片付けたいという衝動を抑えきれなくなってしまいます。
依存症者も初めは、自分の借金は自分で返すべきという責任感を持っているが、次第に依存症が進行すると脳が機能不全に陥ってしまいます。
魔が差す瞬間をトリガー(引き金)と呼ぶそうですが、それをきっかけに勝手に家族の持ち物を売ったり、お金を拝借してしまうというようなことが起こります。
事件簿2.大王製紙元会長特別背任事件
「エリエール」などで有名な大王製紙の3代目である井川意高元会長が子会社から総額106億円ほどの借り入れを行い、カジノで使ってしまったという事件です。
この件についてはご本人の「熔ける」という書籍にて詳しく書いてあります。
この章で私の心に残ったのは、どんな病気でもかかる人とかからない人がいるように、ドーパミン障害が出やすい人と出にくい人がいるそうです。
また依存症になる原因は一つに絞り込めるものでなく、複数の要因が絡まりあっている場合がほとんどであるそうです。
事件簿3.赤ちゃんポスト悪用事件
甥っ子である男児の「未成年後見人」に指名されたこの男性。
男児の名義である6,800万円を、男児を連れて日本中を連れて旅をしながらギャンブルをしていた。
だが、この男性は3歳児の男児を「赤ちゃんポスト」に預け、その後も6,800万円を使い果たすまで、1人で旅を続けたということだそうです。
この男性のように遺産や退職金などによって急に大金を手にしてしまうことによってギャンブルにのめりこんでしまい、ギャンブル依存症を発症し、大金を全て使い果たしてしまうに留まらず莫大な借金を抱えてしまう人は多いそうです。
事件簿4.伊藤忠関連会社社員7億円横領事件
伊藤忠商事から関連会社に出向していた30代の経理担当者が、3年間の間に架空の請求書を作成するなどして、会社の口座から架空の請求書を作成するなどして合計7億円を横領。
この男性はそのお金をFXに注ぎこんでいたそうです。
FXにはまる人は、それをギャンブルとしてやっていることを自覚しにくいのが特徴にあるそうです。
またギャンブル依存症という病気は他の依存症と比較すると高学歴の人がなる可能性が高いそうです。
高学歴の人だったり、社会的にもある程度地位のある人にもなると、周りの人や家族が問題に気付きにくいというパターンが多いそうです。
ギャンブル依存症は自尊心が低くて、プライドが高い人に多いと言えるそうです。
プライド(他人の評価を気にする気持ち)が邪魔をして弱い自分を認める事が出来ないそうです。
「エリート街道」「まじめで手堅い」「管理職や役員という地位に就いている」などの人ほど注意が必要になるそうです。
事件簿5.ガーナ大使公邸闇カジノ摘発事件
駐日ガーナ大使の名義で借りられていた東京都渋谷区のビルの1室で闇カジノが開かれていたとして従業員と客が逮捕された事件です。
このように昔からまん延している闇カジノや、最近ではオンラインカジノなどの闇ギャンブルというのは案外人々の身近に存在しています。
事件簿6.佐賀・長崎連続保険金殺人事件
この事件の詳細は省かせていただきますが、私の共感を覚えた部分を抜粋します。
普通、個人が借金できる額には限りがあります。
300万円くらいの借金を作った段階でそれ以上借りることが出来なくなり、ギャンブルを続けられなくなる場合が多いそうです。
しかし身近に助ける人がいる場合には借金を肩代わりしてしまい、その300万円の借金を何度も繰り返せるようになってしまうそうです。
そこまでいった後にようやく「肩代わりしてはいけなかったんだ」と気付くようになるそうです。
事件簿7.武富士弘前支店強盗殺人放火事件
消費者金融の武富士を訪れた男が、「金を出せ」と要求したが、店長が拒否したため放火して5人が死亡したという事件。
犯人は元々真面目に働いていたようだが、知人に頼まれ消費者金融から合計200万円の借金をし、知人に貸したところ、その知人が返済しないまま自殺してしまい、それを一発当てて返済しようと考えたところから、ギャンブルにのめりこんでいき、借金を重ねていったそうです。
事件簿8.市川市一家4人殺害事件
この事件についてはここでは詳細を省かせていただきますが、親がギャンブル依存症により、金銭的に困窮していたり、家庭崩壊しているところで育った人は、精神的な問題を抱えやすく事件を起こす引き金になるパターンは多いそうです。
第3章 ”ギャンブル王国ニッポン”の問題点
身近で気軽なのが、日本のギャンブル場の特徴です。
またコンビニなどのあらゆるところにATMが設置されていて、お金をおろすのも借りるのも簡単であります。
また国で認められている公営ギャンブルというものも、売り上げが上げる為の工夫をし改善していっているそうです。
その他にも子どもの頃からギャンブルに親しみやすいなどといった、生活の身近なところに日本ではギャンブルが存在しています。
ギャンブル依存症に対する認識の遅れ
アルコール依存症や薬物依存症に関していえば、病気という認識が多くの人にあり、医療施設や自助グループの利用というのは一般的です。
現在もギャンブル依存症を病気としてとらえている人は少なく、「だらしない人間」「どうしようもない人間」の話として捉え、「やめたいのにやめられない」という状態を理解できず、単に個人の意思の問題と決めつけている場合が多いです。
第4章 依存症という「病気」といかに向き合うべきか
世界的にはこのギャンブル依存症というのは精神疾患と定められ、様々な診断基準があるそうです。
病気になるとギャンブルが好きだった人でも楽しいなどという感覚はなくなり「やめたくてもやめられない」「やるのがつらいのにやっている」という感覚になっていきます。
脳のメカニズム等未だに解明できてない部分も多く、治療方法も確立できてませんが、回復することは出来る病気だそうです。
ギャンブル依存症かそうでないかの判断基準として「ギャンブルによる借金を繰り返すかどうか」というものが挙げられるそうです。
依存症でない人というのは一度借金を作ったとしても返済し、完全にギャンブルをやめられるそうです。
依存症は借金で苦しんだ経験があっても、そこで終わりにできず、結局はまた借金を作ってしまうそうです。
借金の肩代わりは絶対にNG
この本によりますと
家族が借金を肩代わりする行為は最大のタブーだということです。
家族は家庭内での問題を隠したいがために、借金を立て替えてしまうかもしれませんが、それだと更に借金を繰り返すことになり、回復を大幅に遅らせてしまうだけということのようです。
自分の子供が自己破産するのを覚悟しても借金返済を助けてはならないということです。
依存症者を救うために必要なことは、借金の肩代わりをすることではなく、出来るだけ早く資金が底をつくようにさせてギャンブルをやめさせる。そして2度とギャンブルに手を出さないような回復プログラムや自助グループにつなげさせるのが大事だと書いてあります。
たくあんになった脳は2度と大根には戻らない
依存症でたくあんになった脳みそは二度と大根には戻らない。なんだかぞっとします。
いちど依存症になったら「一生の病気」「一生の治療」になる。
アルコール依存症の人が「ビール1杯だけなら良いよ」と言われても我慢できないように、ギャンブル依存症の人は「数百円だけなら」と言って止めることは出来なくなってしまっています。脳の構造的に。
ギャンブル依存症になる人の特徴とは
ギャンブル依存症になってしまうのは家族の責任だという話になってしまう家庭も多いそうです。
親同士で「どちらかの育て方が悪かった」と責めたり、「自分の育て方が悪かった」と自分を責めてしまうこともあるそうです。
成育歴や体質や遺伝など、なりやすいなりにくいはあるそうですが、この本の著者が言うには原因を求めても仕方がないということのようです。
依存症になりやすいタイプというのは、「生き方のスキルが足りない」がゆえに、ストレスを溜めてしまい、ギャンブルをやっている間は何も考えないで済むという体験が強烈な成功体験になってしまうのだそうです。
回復へとつなげていくためには
まず大切なのが「底つき体験」だそうです。
落ちるところまで落ちて「底つき体験」をすることによってあとは上がっていくしかなくする。
その上で、同じような立場・経験を持つ人達とのグループセラピーが回復に効果的であるとのことです。
「自分はギャンブルをやめられないのだ」ということを認識することが大切です。
この記事のまとめ
この記事では田中紀子さん著の「ギャンブル依存症」という、ギャンブル依存症について詳しくまとめられている本を要約しました。
- 依存症者は楽しくてやっているのでなく「やめたくてもやめられない」
- ギャンブル依存症は病気であり、そのことを本人も周囲も認める必要がある。
- 日本では身近にギャンブルというものがありすぎるのに比べ対策がとても遅れている。
私自身も定期的にこの記事を見て今の気持ちを忘れないようにしたいと思いました。